天国はまだ遠い

感情の置き場

最近

新生活が始まって電車を使うようになった。電車は通り過ぎるときにいつも私を傷付けていく。嫌なことがなかった日でも電車が目の前を通り過ぎていく瞬間は少し死にたくなる。電車に乗ると何故か人生について深く考えすぎてしまうし。本当に恐ろしい乗り物だと思う。

最近はよく雨が降るから嬉しい。この前薔薇を見に行ったのだけど、雨の中雫を纏う姿が美しかった。薔薇は花瓶よりも庭に咲いている方がずっと良い。



無垢なる花たちのためのユートピア - 川野芽生

「白昼夢通信」
文箱に入ったミルフィーユ、夢の中で眠り続ける竜、紫陽花の揺れる電車、年中花が咲き続ける街、人形の魂を抜くための工房、湖を渡るバス、香水の雨。美しく浮遊感漂う文章で綴られるイメージの世界。

本にも本の呼吸があって、それが雪の蜃気楼みたいなものを作っているような気がする。わたしは本の吐く息のその冷たさが好きで、自分の体も冷えていっていつか一冊の本になれるんじゃないかって気がして。

この部分とても良かった。私も本には呼吸があると思う。私は本の呼吸が生み出す酸素で生きていて、本がないと死んでしまう気がする。


I'm Not Human At All - Sleep Party People

悲しく切ない音に救われる感じがして、何度も聴いてしまう。最近の夜はずっとこれ。

些しの不安

自分が紡ぐ言葉が言葉に思えない時がある。言葉というより記号。記号だからこんなにも簡単に、何でも口に出来てしまうのだ。ほんとうに大事なことは何一つ言えない。記号ばかり発しているから中身が空っぽになってきている気がする。


第七官界彷徨 - 尾崎翠

タイトルがとても素敵だと思った。第七官に響く詩を書こうとする少女のお話。掴み所のない雰囲気で正直よく分からなかったが、登場人物がみんな何だか可愛らしくて好きだった。「そして音楽と臭気とは私に思わせた。第七官というのは、二つ以上の感覚がかさなってよびおこすこの哀感ではないか。」



いかれたBaby - Asian Glow

韓国・ソウルを拠点に活動するAsian GlowのFishmansカバー。予想外の組み合わせで見つけた時は嬉しかった。韓国の宅録バンドの独特の雰囲気が好き、Parannoul とか。Parannoulはリリイ・シュシュのすべてのセリフをサンプリングした「Beautiful World」が特に好き。

微睡

忙しかった頃はあれほど自由が欲しかったのに、いざ自由になるとどうしていいか分からず、時間を持て余している。冷たいシーツに包まって、しんからぼんやりする。陽の光に煌めく埃を見て、少しだけ永遠に手が届いたような気がした。


オイディプスの刃 - 赤江瀑

美しい妖刀が招いた白日の惨劇。特に冒頭の筆致が素晴らしい。夏の陽射しとラベンダーの芳香に包まれて、白昼夢を見ているようでクラクラした。
解説にあった皆川博子の追悼文「赤江瀑を透して向こうを見ると、外界が歪むのである。そうして、歪んだ情景が心地よくなる。そこに身を添わせていたくなる」まさにそう、と言いたくなった。


志乃ちゃんは自分の名前が言えない - 押見修造

私は吃音じゃないけれど、普通のことが普通に出来ないだけで馬鹿にされた経験があるから他人事とは思えなくて、読んでいて苦しかった。
「私が追いかけてくる 私をバカにしてるのは 私を笑ってるのは 私を恥ずかしいと思っているのは 全部私だから」物凄く分かる。自分が自分である限り辛い気持ちは付きまとう。自分を好きになるために震えながら立ち向かう志乃ちゃんみたいなエネルギー自分には全く無いから眩しかったな。


[asin:B0BVFTP2MF:detail]
GINZA (ギンザ) 2023年 3月号[クリエイターが住むお部屋]

とっても良かったのでこれも是非。



Face the Fire - Boy Harsher

まるで80年代からタイムスリップしてきたかのような質感。妖しげで奇妙な浮遊感が病みつきになる中毒性の高い音楽。

夜の国へ

ちゃんとした人間のふりをするのに疲れてしまってずっと暗い部屋に籠っている。時々寂しくなるけどうっかりテレビでもつけてにぎやかな音をこぼしてしまったら、余計虚しくなってしまう。遠くから聞こえるサイレンの響きは殆ど「死ね」に近くて、朝日も物凄くマイナスな波動を出している。外界の全てが自殺誘発装置に思える。この部屋にしか、夜にしか居場所がない。

この景色をもう見ることがないように西へ、西へ走ってください。朝に追いつかれないように、明日が来ないように、黒い涙が見られないように、暗い夜の国へ。小さな尊い光たちが灯る夜の国へ。

「八本脚の蝶」二階堂奥歯
私も同じところへ向かっている。


美学への招待 - 佐々木健一

「AIの美学」で、ひとはAIが作品を生み出すことを重視しているけど、その膨大な作品の中から良い物を選別しているのは結局人間であり、実は生み出すことではなくその善し悪しの判断が重要であることが指摘されていた。「よさ」を感じる人間の感性を讃えていて、芸術においてAIに対する人間の可能性を感じられた。ちょうど最近モヤモヤしていた話題だったので良かった。



Galatea/Dream - Doon Kanda

広大な宇宙のような、森を通り抜ける冷たいの風のような、美しく神秘的で心地良い音楽。この曲が収録されているアルバムはジャケットも凄くかっこいい。

好き

悲しいとき、綺麗に化粧をしてお気に入りの服を着る。どこかへ出かけるわけでも誰かに見せるわけでもないけど。好きな音楽をかけて、一つ一つ服を選んでいくのが小さな楽しみ。こういう時はいつもより少し楽に息ができる。それでも孤独で長い夜はまた必ずやってきて、この繰り返しが人生なのだと思うとぞっとしてしまう。

服は何故音楽を必要とするのか? ---「ウォーキング・ミュージック」という存在しないジャンルに召還された音楽たちについての考察 - 菊地 成孔

ファッションショーを各メゾンのショーで流れる音楽の観点から分析する画期的な批評。ファッションショーではダンスミュージックを使う事が多いのに、音楽に合わせて踊る事はしない。かといって音楽のないファッションショーも殆どない。考えたこともなかった。エレガンスがショー音楽とモデルのウォーキングとの不調和から生まれるというのも興味深かった。モデルが完璧に音楽に合わせないところがウォーキングと単なる行進との違いでありエレガントなのか。やっぱり菊地成孔さんの書く文章は面白くていいなと思った。


Psycho - Psychoheads

今更解散を知ってショックを受けてる。かっこいい見た目の人たちがステージに並んでかっこよく楽器を弾いていて、良いバンドだと思った。2020年面白かったな。


私は文章にしてみると自分の言いたいことのほんの一部しか表現できない。芥川は「文章の中にある言葉は辞書の中にある時よりも美しさを加えていなければならぬ。」と言っていたけどそれも全然出来ていない。それでも文章を書きたいという気持ちになれるだけで幸せだからまだ続けてみます。

二月の温度

冬の夜が好き。冷たい頬をつつむマフラー、真夜中のミルクティ、灯油の燃える匂い、熱いお風呂、ラジオから聞こえてくる人の声。外出から帰ったときの一瞬の幸福のために出掛ける気になれる。
冬の朝も。やわらかい冬の光は私の傷を乱反射させていつもより少しだけ美しく見せる気がする。
寒い日のあたたかい記憶は時間の流れの外にある感じ。どれを思い出してもやさしくて寂しい。

昨日は友達の誕生日を買いに出かけたんだけど、家を出たら春の訪れを感じさせる空気で少し残念な気持ちになってしまった。そろそろ春を迎えに行きたくない。



桜の満開の木の下で - Merry Go Round
春は嫌いだけどこの曲は好き。思春期の吸血鬼と毒蟲もよく聴く。病的というよりもはや病気だし変態の域でとっても好き。なんか私永遠に厨二病でいられたらいいな。私はヴィジュアル系に詳しくないからヴィジュアル系に猟奇性が入ってきたのはいつからだろうとずっと疑問に思ってたりします。


ウエハースの椅子 - 江國香織
私がずっと漠然と思っていたことが上手く言語化されていく感じで良かった。「私たちはそれ以上なにも望むことがない。終点。そこは荒野だ。」人間は満足していないのが当たり前で、満たされてしまったら終わりだ。これから先、今この瞬間以上がないと確信したら絶望感しかないだろう。恋はどこまでも孤独。満ち足りて行き止まり。恋はゆるやかな自殺。

厭世感と夢想度は比例する。いつも逃れるようにして夢みたいなことばかり考える。
内緒にしてるだけで、魔法使いだって妖精だって喋る人形だって天使だって存在するし、海の果てにはお菓子の国があって、可愛らしいプリンセスがいる。雲の上は歩けるし、ぬいぐるみは夜になると動き出すんだ。あの遠い星にもきっと…。本当は本当は本当は。
でも我に帰ってしまった瞬間にこの逃避作戦は失敗に終わる。私はもう大人だからこの世界からかくれんぼできないらしい。誰か私に命の使い方教えてください。私は私を幸せにしたい。

『この光と闇』服部まゆみ
甘やかな箱庭世界の崩壊、醜い現実の世界で生きていくということ。主人公が盲目であるが故に成り立つ美しい世界とその感じ方の表現が素敵で読むのが楽しかった。ただミステリとして紹介されていたけど個人的には全然ミステリではないと思う。

読書はどこにも行かずにどこかへ行く手段だから好き、読書みたいな人も好き。幼い頃はマジック・ツリーハウスシリーズやレインボーマジックシリーズが大好きだったな。あの頃のワクワクはもう取り戻せないと思うけど児童書を読みに図書館に行きたい。


BADモード - 宇多田ヒカル
明日が楽しみな日があっても死にたい気持ちは簡単には消えてくれないけど、そんな私でも。